新出発

 


私のアメリカ生活は長く、かれこれもう30年以上になります。子供の頃からの夢である宇宙飛行士を目指し、ウィスコンシン大学に留学したことが、その始まりです。授業が全く分からず、毎晩ほぼ徹夜で勉強しても成績は最低でしたが、ただ宇宙飛行士になりたいという思いだけで、必死に勉強を続けていました。懐かしいです。


そんな中、1998年に日本人宇宙飛行士の公募があり、勇んで応募しました。運と体力で二次試験まで進みましたが、そこで無念の不合格。しかしこの受験を通して、同じ夢を持つ仲間とも言うべき、多くの方々との出会いがありました。


卒業後は、技術を使う側である顧客と直接話せる機会を求め、技術営業として、ミシガンにある日系自動車部品メーカーに就職(現Niterra North America, Inc.)。実験漬けだった学生時代と全く異なる環境でしたが、良き上司と同僚に恵まれ、充実した毎日を過ごすことができました。一方で、宇宙飛行士という夢はもちろん持ち続けており、次の公募を手ぐすね引いて待っていたところ、2008年、遂にその機会が訪れました。気合は十分、合格して辞めます!と会社にも宣言し、全てを賭けて試験に臨みましたが、結果は無残にも一次試験で敗退。


さすがにこの時のショックは大きく、絶望感で自暴自棄になりかけましたが、気丈な妻と家族の支え、職場の上司や同僚、友人達の励まし、そして補習校で出会った生徒達の純粋さに救われ、なんとかまた歩き出すことができました。宇宙飛行士という夢は潰えていたので、ただひたすらに目の前の山を登る毎日です。登り切ったら次の山、それを登ったらまた次の山、の繰り返し。しかしありがたいことに、会社では様々な仕事を任せていただき、多くの貴重な経験を積むことができました。


そんな中、「しなければならないことではなく、したいことはなんだろう?それを見つけて独立したい。」という思いが芽生えてきました。まだぼんやりとした思いだったのですが、その方向に向かってみたいという気持ちが勝り、2024年、思い切って会社を退職。しばらく休むと心身が充電され、だんだんと自分のやりたいことが見えてきました。自分は教えることが好きで、いろいろな人に会うことも好きだから、自分の経験を伝えることを仕事にしたい。こう思い立ち、トレーニング、コンサルティング、コーチングを提供する個人事業を立ち上げることにしました。


好きなことを仕事にできれば、趣味が即仕事ということになります。生涯夢中になって工夫を続け、極めていける最高の遊びです。引退もありません。そして好きなことを仕事にした個人事業主達が、お互いに得意なことを提供しあえば、さらに面白いことができるような気がします。


もちろん、本当にできるのかという不安はありますが、やってみなければ分からないし、何よりやってみたいという冒険心が、抑えても抑えても湧いてきます。この不安と希望が混ざったような不思議な高揚感は、宇宙飛行士を目指していた頃のようなドキドキ・ワクワク感に似ており、そんな気持ちで過ごしている今は、毎日とても楽しいです。


思えば、宇宙飛行士という夢に向かって猪突猛進していた頃を第一の人生とすれば、夢破れた後、目の前の山をひたすら登り続けた頃が、第二の人生でした。そしてこの第一、第二の人生があったからこそ、こうして今、第三の人生のスタートを切ることができたと思うと、無駄な経験というものはないんだな、本当にありがたいなと思います。


ともあれ、目指す方向は決まったので、これからはそこに向かう一歩一歩を楽しんでいきます。朝はワクワクで始まり、夜は感謝で終わるような毎日を、過ごしていきたいと思っています。


最後まで読んでいただき、ありがとうございました。




JBSDデトロイト日本商工会の会報、「Views」の2025年6月号に掲載された「リレー随筆」より抜粋。