好きこそものの上手なれ



「好きこそものの上手なれ」とは、「好きなことは、熱心に工夫しながら努力するので、自然に上手になるものだ。」という意味である。(小学館 例解学習ことわざ辞典)


好きなことは、誰に言われなくとも、自ら進んでやる。夢中になる。没頭する。たとえ壁にぶつかっても、その壁を乗り越えようと思える。いや、その過程自体が楽しいのだから、壁とさえ感じないかもしれない。確かにそんなに好きなことがあれば、自然に得意なことになっていくだろう。まずここまでは想像できる。


では実際に、好きなことが得意なことになり、それを生業にしている人はいるだろうか?多くはないが、確かにいる。職人さんや芸術家、個人事業主などがそうだ。私の父も、義父もそうだった。また生業とまではいかないが、好きなことが業務内容になっている人も多い。「財務諸表を見るとゾクゾクします。」と言っていた彼は、確かに経理部のエースだった。


日本の外はどうか?論語には、「之を知る者は之を好むに如かず。之を好む者は之を楽しむ者に如かず。」という言葉がある。何事も、楽しんでやっている人には敵わない、ということであろう。英語圏にも、Do what you love, love what you do. という表現があるし、The only way to do great work is to love what you do. と言ったのは、かのSteve Jobsである。


こう見てくると、「好きこそものの上手なれ」ということわざは、何か人間の本質のようなものを、見事に言い当てていることが分かる。であれば、最も大切な問いは、こうなるのではないか?「自分が好きなことは、何だろう?」


この問い、単純なようでなかなか難しい。私自身、腹に落ちる答えを見つけるためには、少々時間が必要だった。皆さんはどうであろうか。もしかしたら、即座に自分の好きなことを言える方は、多くはないかもしれない。「好きなことはよく分からないが、嫌いなことならよく分かる。」「そもそも、そんなことを考える余裕がない。」しかし、好きなことが得意なことになるのであれば、それを見つけることは、極めて重要とは言えまいか。


では、どう見つければいいのだろう?私は、子供の頃夢中になっていた遊びに、そのヒントが隠されていると思う。周りの人に、自分の強み(得意)を聞いてみるのもいい。好きなことは、既に得意なことになっており、自分では気づいていない可能性があるからだ。嫌いなことを少しづつ止めてみるのも、個人的にはお勧めである。


好きなことは、皆違う。得意なことも、皆違う。ということは、自分が嫌いで苦手なことでも、それが好きで得意な人が、どこかにいるということだ。逆もしかり。であれば、自分の好きなことを追求すること自体が、立派な社会貢献とは言えないか。


そして、「好きこそものの上手なれ」を実践する人が増えれば、得意なことを提供しあえる楽しい社会ができそうな気もするが、はてさて、さすがに妄想が過ぎるだろうか?




JBSDデトロイト日本商工会の会報、「Views」の2025年9月号に掲載された「技あり!ことわざ」より抜粋。